りんごジュースの思い出

りんごジュースを飲むと、必ず思い出すことがある。
絶食。何も食べないで、りんごジュースだけで過ごす。
アトピー性皮膚炎の治療の一環だ。

そもそもなぜ絶食がアトピー性皮膚炎の改善に良いか、いまでもわからない。子供なのに十分な栄養を摂取できないリスクのほうが、普通に考えたら大きいようにも思う。しかし、当時はそれすら藁にもすがる思いでの取り組みだった。

何か食べたくなったらりんごジュースを飲む。透明で安価な濃縮還元のりんごジュース。透明なものも濁っているものも、本質的に味に変わりはないそうだが、透明なジュースのほうが安っぽく感じる。そんな特価のりんごジュースで、空腹でも我慢できたのは、それだけアトピーの症状がひどかったからだともいえる。
おなかがすいて、胃酸過多になって、おなかがいたくなっても、これも治療のためだと、りんごジュースで気を紛らわす。小学生だったにもかかわらず、これにはかなりの苦痛だった。家族がものを食べているのを見るのがとてもつらく、食べ物のにおいにはとても敏感になる。団地住まいだったので、近所の夕飯のにおいは猛烈に空腹に効いた。はやく今日という日が終わればいいのにと、気を紛らわせるためのゲームをたくさんした。

宗教的盲信で取り組んではみたものの、結果を見てもそれはまったく意味のないものであった。しかし、空腹に対する忍耐力というものがついた。おなかがすいても何かを軽率に食べたりしない。そういう心構えというか、少食でも生活できる術が身についた。それが正しい忍耐の身につけ方かどうかはわからないが、それが結構役立ったりしている。

いまでもりんごジュースを見ると、必ず絶食した経験を思い出す。あのころ我慢できたのだから、いまでも我慢できるはず、そう思って無駄な間食を控えて生きていられるような、そんな気がする。治療にはまったく役に立たなかったが、得たものは、あったと思う。だけど、自分の子供にそんな忍耐を強いることはできないだろう。親としてもつらかっただろうと、いまだからこそ感じられるのだ。