月と太陽と観測者

観測者はずっと月を見てきた。夜空に瞬く星々の中で、ぼんやりと漂う月。月は気まぐれで、日によって満ち欠けをして、煌々と輝くときもあれば、全く姿を見せない日もある。
この空には、太陽もある。広い宇宙の中で自ら輝く、無数の光星のひとつ。太陽の正体は眩しすぎてよくわからないが、それが円い形をしていることくらいは知っている。

月はただ観測者の近くを漂っているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。それなのに観測者は、月の引力によって、心が歪み波立つ。
太陽は観測者を暖かく照らす。とても距離が遠いはずなのに、その心地よい暖かさは感じることが容易だ。

今宵は、月が出ているかな。

観測者は今日も空を眺める。上弦の半月だ。
どうして月は満ちたり欠けたりするのだろうか。
そもそも月は輝いているのだろうか。知らないことばかりだ。どうして月は観測者の心をかき乱すのか。もっと月のことを知りたい。月のすべてを知りたい。
観測者は毎晩、月を眺めた。曇っていておぼろげな表情。斬れそうなくらい鋭い三日月。暗闇に影を作るほど明るい日。完全に気配を隠した新月。嵐の夜は、どのような形か知ることはできなかった。それでも月は、いつでも違う顔を見せてくれた。もしかしたら今日は突然予測のつかない形になっているのではないかと期待もしたが、それはほぼ予想通りだった。逆にそれは安心感をもたらした。

月のことを色々調べているうちに、この満ち欠けの原因を知った。太陽の光を観測者の棲む星が隠しているからだった。月の表情を変化させているのは、自分の星だという現実は衝撃だった。

ある時、観測者は太陽を観察してみた。手を伸ばせば届きそうな位置にいつでもいてくれたそれは、確かに月を照らす光だった。太陽の方向に、月の光が輝いている。月は自ら光っていなかったのだ。

観測者が太陽を観察し始めると、もはや月のことは眼中になくなった。太陽が眩しすぎて、魅力的過ぎて、見えなくなったのだ。月は相変わらず近くを漂っていたが、観測者が純粋に月だけを見ることはなくなった。月の満ち欠けは太陽のせいだと知ってから、太陽はいつでも月のそばにいた。時々夜中に月を眺めても、あの月を照らすのは太陽だという概念が離れなかった。この夜を照らすのは太陽なのだと。
太陽を直接見ることはもっと難しいと思っていたのだ。太陽を観察する方法は、意外とそばにいくらでもあった。いままで月ばかり見ていたので、気づかなかっただけだった。

今宵は、月は出ているかな。

観測者がそう思うことは、ついになくなってしまった。